2015年05月01日

白いへびのすむいけ ( 三重県 )

 昔々、美しい砂浜の近くに、小さな村がありました。 村人たちは、波の静かな日は海へ出て魚をとり、海が荒れる日には、山を切り開いた段々畑を耕して、野菜や麦などを作り、貧しいながらも平和に毎日を暮らしていました。

 ところがある日、山一つ越したお役所から呼び出された村長(むらおさ)のやへいさんが、青い顔をして帰ってきました。 そうして、すぐに村中の人を集めて、こう言いました。
「あすから、しばらく海に出ることを止められた。もしやぶった者があれば、お役人の手で打ち首になる。そのわけは、お殿様のご病気が重いので、生きものを助けることによって、お命をとりとめようとのお計らいなのだ。」
 
 村人たちは、びっくりしました。 そして村長のやへいさんと同じように、青い顔になってしまいました。

 まえが海で、うしろは山。 わずかばかりの段々畑では、ほんの少しの野菜と、麦やひえがとれるだけです。 米を手に入れるときには、海でとった魚を、山を越えて町へもって行き、米とかえるよりほかにない村なのです。

 しかし、お殿様のいいつけとあっては、どうすることも出来ません。 集まった村人たちは、あたまを抱え込みながら、家に帰っていきました。
 ところが、十日経っても、一月経っても、お殿様のご病気は、いっこうによくなりませんでした。 村人たちはすっかり困ってしまいました。 とくに、子供の多い家では、もう野菜や、麦ですら、なくなってきました。
 おりから天気のよい日がつづき、ぼらやすずきが岸ちかくの海で跳ねています。 でも、村人たちは、ただ青い顔をひきつらせながら、にらみつけるほかありませんでした。

 ちょうど、生きものをとるべからず、というおいいつけが出てから、三十三日目の夜でした。 星のない、まっくらな夜の浜辺から、いっそうの舟が、するすると海へおりていきました。 その舟には、村はずれにすむ、大吉という若者が乗っていました。
 大吉には、お父さんがなく、病気で寝ているお母さんと、十二になる、おりょうという妹と、ほかに三人の弟がいました。 十五になったばかりの大吉のうでに、家族六人の暮らしがかけられていたのです。
 ほかの家のように、暮らしにゆとりがわるわけではありません。 大吉が海でとってくる魚を、その日その日のお米にかえて、食べていました。 その魚がとれないのですから、たちまちお米がなくなってしまうのは、あたりまえでした。

 あのおいいつけが出てから十日ばかりで、大吉の家には、もう食べられるものは、大根の葉っぱひとつ、残っていませんでした。 大吉は、ほかの家でのてつだいをしては、わずかばかりの食べものを、わけてもらっていましたが、村じゅうが困ってきた今では、もう人の情けにばかりすがっていられません。 それで、寝たきりのおかあさんと、おりょうをはじめ三人のきょうだいのために、ついにいいつけをやぶる決心をしたのです。

 くらい海で、魚はおもしろいほどたくさんとれました。 夜の明けるまえにと、急いで村に帰り、砂浜に舟をひきあげた大吉は、ふと、目の前にたっている人影に気がつき、おもわず立ちすくみました。
 手に持っている提灯に書かれてある、見覚えのある字は、ときどき浜へ見回りにくる、町役所の見回り役人のものだったからです。

 たちまち、舟に積んであった、二十匹あまりのぼらと一緒に、大吉は明けはじめた朝のひかりを背に受けて、泣き叫ぶおりょうたちの声をあとに、町役所へひきたてられていきました。
 大吉のいもうとのおりょうは、負けず嫌いで、兄おもいの美しい娘でした。 大吉の姿が、峠道の遠くにきえてしまうと、もう泣くのをやめて、村長のやへいさんにたずねました。

 「兄さんを助けるみちは、なんとしてもないのかえ。」
 「みちはただひとつ・・・。 生きものを殺すなというおふれは、殿様のご病気が良くなるまでのことという話じゃ。 もし、二、三日のうちにお殿様のご病気がなおればなぁ。 しかし、それは無理というものじゃ。」

 その言葉がおわるかおわらないうちに、おりょうはそのまま、お宮さまへととんでいきました。 そしてお宮さまへひざまづくと、一心に祈りつづけました。

 「かみさま、どうか、お殿様のご病気を治してください。 かわりに、わたしの命をさしあげます。 家には、病気のお母さんと、小さい弟が三人もいます。 兄さんは、わたしの家のたいせつな人なのです。 かみさま、どんな罪でもわたしが、かわりにおうけします。」
 一心に、祈りつづけていると、ふとおりょうは、肩の上に、だれかの手がおかれているのに気がつきました。
 ふりむくと、白い着物を着た女の人が立っているではありませんか。 おどろいたおりょうが、立ち上がろうとすると、その女の人はやさしく言いました。

saisei_1500428.jpg

 「わたしは、このお宮に祀られている神のせいです。 おまえは今、お殿様のご病気を治すなら、どんな罪でもうけるといいましたね。」
 「はい。」
 「それでは、おまえは、へびになるのですよ。 おそろしい、白いへびに。 そして、わたしの大事な鏡を守るのです。 ほら、このお宮の森のすぐうらに、ちいさな池があるでしょう。 あれがわたしの鏡なのです。 いつも澄みきっていて、さざなみひとつ立てないで、鎮まりかえっていたのに、近ごろ村人が、ときどき入り込んではけがして困ります。 ですから、近寄る者があれば、その白い大きなおそろしい姿を見せ、大雨を降らせるのです。 そうすれば、村人も、怖がって寄り付かなくなるでしょう。 その役を、あなたがひきうけてくれるのなら、お殿様のご病気を、たちどころに治してあげましょう。」

 おりょうは迷いました。 うまれつき、へびが大きらいだったのです。 でも、どうしていま、そんなことが言っておられましょう。
 「はい。」
 おりょうはうなづきました。 そして、よわよわしい声で、つけくわえました。
 「よろこんでへびになります。 お鏡の池もたいせつに守ります・・・・。 だけど、ただひとつ、おねがいがあります。 一月十五日はわたしの産まれた日なのです。 この日、一日だけは、もとの自分の姿にもどることを、ゆるしていただけないでしょうか・・・。」

 その女の人は、にっこりわらいながら言いました。
 「おまえも女の子ですものねえ・・・。 いいですよ。 だけど、その姿を人に見られてはいけませんよ。」
 おりょうがうなづくと、その女の人の姿はいつのまにか、すうっときえてしまいました。 そして気がつくと、おりょうはもう自分がへびになってしまったことを知りました。

 それから三日ののち、大吉はゆるされて、村へ帰ってきました。 その日の朝、首を斬られることになっていた大吉は、お役人から呼び出されたとき、すっかり覚悟をきめていたのです。 ところが、
 「おまえの罪を知らせに行った役人がな、いい知らせをもってきた。 お殿様が、三日前、急にご病気がすっかり良くなられて、その日のうちに、生きものを殺すなという、おいいつけはとりやめになったのだ。 おまえのやったことも、罪にはならない。 すぐに帰るがよい。」
と、いいわたされたのです。

 よろこんで帰ってきた大吉は、村人から、おりょうがいなくなったことを知らされました。 大吉は、おりょうがあの朝、お宮さまの森へかけこんだのを見た者がいると聞いて、その辺りをけんめいに探し回ったのですが、とうとう、おりょうを探し出すことは出来ませんでした。

 それから、何年か経ちました。 やがてこの村の村人は、村はずれの池におこる不思議に気がつきました。 その池で釣りをしたり、きたないものを洗ったりすると、すぐに天気がわるくなり、大雨が降り続くのです。 そして、ある年の一月十五日の夜、村長のやへいさんが、まっさおな顔をして帰ってくると、
 「池で、おりょうが、水あびをしていた。」
というなり、ばったりたおれて、息をひきとってしまいました。

 また、ある日、笛の上手い若者が、池のほとりで、笛を吹いていると、池の中から、ひとかかえもある白いへびが、こちらをじっと見つめているのに気がつき、びっくりして逃げかえりましたが、そのあとで、ものすごい雷と大雨が三日も降り続きました。

 そんなことがたび重なったので、村人たちは、その池を鏡池とか、おりょう池とかよび、おそれて近づかなくなりました。 そして、日照りが続き、雨の欲しいときにだけ、白い着物に身をかため、この池のきしべへ集まって、白いへびに向かってお祈りをささげると、不思議に強い風といっしょにものすごい雨が、三日三晩の間、村中にふりそそぐのでした。
(紀北地方)


mie.jpg

参考書籍 たねまきごんべえ-三重の民話
     ※参考図書を元に、文章を書いています。

画 ひよこ  ※参考図書の掲載画を元に、イラストを描かせていただきました。











posted by ひよこ at 00:00| 民話 三重県 | 更新情報をチェックする