2015年08月01日

光る玉

むかしむかし、ある町に、よくのふかい和尚さんがおったそうな。
ある日のこと、和尚さんが、檀家のおつとめにいったら、かえりがおそうなってしもうてな、かごにのってかえればいいもんを、そこがよくのふかい和尚さんのことじゃ。
お金がもったいないと、ひとりで夜道を、トコトコトコトコ、歩いて帰ってきたと。
 檀家でよばれたお酒が、ほろおろとまわってきて、はぁもう、ええ気持ちじゃ。
 そんで、代官橋までかえってくるとな、橋の手すりの上に、ピカリピカリ光るもんがある。 見れば、たいそう美しい玉じゃ。
 和尚さんは、よろこんでなぁ。
「こりゃぁ、けっこうなおさずけもんがあるわい。さっそく、いただいて、かえりましょう。」
 つかんで、ふところへ入れようとすると、光る玉ぁ、ころころころころっと転がって、ちょこんと、先のほうで止まった。
和尚さんは、
「これこれ、かってに、転がるでない。傷がつくわい。」
と、そばへいって、拾おうとした。するとな、玉ぁ、また、キラキラ光ながら、ころころころっと、先のほうへ転がっていく。転がっても、転がっても、よごれもせんで、美しゅう光っとる。和尚さんは、よけいにその玉がほしゅうなってな。
「こりゃ、まて。こりゃ、まて。」
と、いいいい、追いかけていくうちに、もらってきたお布施も、ご馳走の包みも大事なお数珠も、みんな落としてしもうてな、とうとう、もとの町ん中までもどってしまった。
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 町の衆は、和尚さんが、フーフーいいながら、追いかけとるのを見て、
「それ。みんなで、和尚さんを手つどうてやれ。」
と、わやわや、わやわや、和尚さんの後から、みんなして、光る玉ぁ追いかけたと。
 そのうちに、玉ぁ、町はずれの百姓家の庭へ、ころころころっと、転がり込んだかと思うと、ぴょいと、やぶれ障子の穴から、家の中へとびこんでしもうた。
「それ。」
と、みんなが中へ入ると、こりゃどうじゃ。百姓おやじがひとり、柱にもたれて、大きな口をぱっくり開けて、ねむっとったわい。
 玉ぁ、その口ん中へな、ひょこーんと、入ってしもうた。
「ありゃ、ありゃ。」
「こりゃまぁ、どうしたこっちゃい。」
和尚さんも、町の衆も、たまげてしもうた。
「これ、これ。おきさっしゃい。えい、これ、おきんかい。」
ときいた。
おやじぁ、目をぱちぱちさせてな、
「わしは、なにも食いはせん。いま、やっとのことで、家へもどってきたところですわい。ああ、しんど、しんど・・・。」
「なに?家へもどったところじゃと・・・。」
「へえ、わしゃ、用がありましてな、さっき代官橋までいきましたら、どこの人やらしれんが、いやもう、おそろしい人に追いかけられて、はあもう、にげて、にげて、やっといま、家にもどったところですわい。ほれ、胸が、このように、ドキドキしとりますがな・・・。」
 おやじのことばをきくと、町の衆は、なんやらひどくおかしゅうなってきてな、みんな、くすくす笑いだしたと。
「さては、和尚さんは、ここのおやじさんの、たましいをおいかけてござったんじゃ。」
「それにしても、和尚さんの足のはやいことのう。」
 和尚さんはな、もう、きまりがわるうて、あわててその百姓家をとびだすと、しょぼしょぼと家へかえりかけたと。
 そしてな、
「それにしても、百姓のたましいってものは、きれいなもんじゃなあ。」
と、つぶやいたそうな。



参考書籍 川崎大治民話集 日本のおばけ話 童心社
     ※参考図書を元に、文章を書いています。
     ※こちらのイラストは書籍の挿絵を参考に、オリジナルで作成しました。
posted by ひよこ at 00:00| 民話 おばけ | 更新情報をチェックする